2010年12月12日日曜日

カンテレひきの若者:フィンランド

フィンランドの民話「カンテレひきの若者」

ぎょうせい「世界の民話3:北欧」より抜粋



あるところに一人の若者がいた。
若者には恋人がいなかったので、クリスマスに何をしようかと考えていた。
そこで、ろうそくを持ってサウナ浴場へ行き、カンテレをひくことにした。
しばらくひいていると、娘がやってきて踊り始めた。
真夜中まで踊り続けると、若者に近寄ってキスをして、帰っていった。
次の日も、また娘がきて同じように踊り、同じように帰っていった。
その次の日の朝、若者は名付け親に相談した。
すると「十字架を持って行きなさい。娘が近寄ってきたら十字架をかけなさい」
と言われた。
その日の夜も娘がやってきた。
踊りを終えると、真夜中ごろに娘が若者に近づいてきたので、
若者は娘に十字架をかけた。
すると、娘は窓に向かってつぶやいて、ほかの娘たちが答えていた。
若者は驚いて、その場で気を失ってしまった。
朝になって気がつくと、その娘が若者のそばにいることに気づいた。
若者は娘に話しかけたが、娘は口がきけなかった。
そこで牧師のところに行って、神のことばをかけてもらった。
すると娘は、宮殿から来た伯爵の娘であるとしゃべった。
そして、若者に、一緒に宮殿に行くように言った。

二人は馬車で宮殿に向かったが、途中で馬が疲れてしまった。
歩いて、何とか宮殿までに着いたが、中には入れてもらえなかった。
しかし、娘が「伯爵のこどもについて話しがである」と告げると、
伯爵に会うことができた。
伯爵は質問した。「お前は何を知っているのだ?」。
娘は答えた。「あなたの娘は21歳になりますが、大きくもならなければ、
死ぬこともありません。なぜなら、あなたの娘ではないからです。
私こそがあなたの娘なのです」。
「なぜ、お前が娘なのだ?」。
「魔女が私をさらって、代わりの娘をゆりかごに置いて行きました。
私は魔女のもとで21年間暮らしていました」。

娘は伯爵に質問した。
「そのとき、舞踏会をひらいて、銀の匙を盗まれませんでしたか?」。
「そうだ。盗んだ家政婦には罰を与えた」。
「それから後にも舞踏会を開き、銀の杯が盗まれませんでしたか?」。
「そうだ、盗まれた」。
「その犯人は私たちだったのです。これで私があなたの娘であることは
お分かりいただけたはずです。そして、この若者を私の夫にしてください」。

「いったいどうやって若者と知り合ったのだい?」。
娘は答えました。
「クリスマス・イブの日に、浴場でカンテレを弾く音が聞こえました。
私が聴きたいと魔女に願うと、踊って若者にキスをするように命令され、
そのようにしました。
次の日も同じようにしました。またその次の日に同じようにしましたが、
賢いこの方は私に十字架をかけました。
この若者が私を魔法からすくってくれたのです」。
娘からこの話しを聞いて、伯爵は自分の娘であることを認めました。
すると、ゆりかごにいたはずのこどもはどこかへ消え去ってしまいました。

その後、伯爵は若者に馬車と立派な石造りの家を与えました。
その家で若者と娘は二人で仲良く暮らしました。

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カンテレを弾く若者と謎めいた娘のお話しです。
魔女の魔法を破るための十字架という、キリスト教の影響が見られる点が、
ドラキュラにも似ているように思えました。
娘であることの証明がすこし弱いような気がしますが、
21年間こどものままであることが、魔女の影響であることを確信させたのでしょう。